【ジャンパオロの色が出てきたミランとマッツァーリの4-4-2変更】セリエA 第5節 トリノ×ミラン

はじめに

前節のミラノ・ダービーではチームとしての狙いがいまいち見えてこず、すべてがチグハグなままあっさりと敗戦。いまだにチームとしての完成度は上がってこず、システムの最適解を探しながらの戦いが続いている。開幕から4試合で2勝2敗はある程度想定内の結果ではあるが、ここからの厳しいトリノ戦、フィオレンティーナ戦がチームの結果としては重要になってくる。ジャンパオロはどのようなシステムを選択して自身のフットボールを表現していくのだろうか。

フォーメーション

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ミランインテル戦前半途中に4-3-1-2から4-3-3に変更。守備体系が変わらない4-3-1-2の亜種ではなく、オーソドックスな4-3-3を採用した。スタメンには新戦力であるテオ・エルナンデスやベナセル、レオンなどが入った。

トリノは3-4-1-2を採用。ミランの攻撃のカギとなる中盤3枚とがっつり噛み合わせてくる形をとってきた。

 

この記事はジャンパオロの基本的なプレーモデルを踏まえた分析になります。より深く理解するためには合わせて読んでいただくことを強くお勧めします。

 

前半/ミランのボール保持

ミランのビルドアップ時、トリノががっつりマンツーマンで噛み合わせてくるのはインテルと同じ。ミランはWBからのプレッシャーがワンテンポ遅れてくるSBでポゼッションを安定させる。

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得点はカラブリアにWBのアイナがプレッシャーをかけてきたところを、その裏のスソにボールを送りこんだところからチャンスを作り出し、ピョンテクのクロスにエリア内のレオンが倒されPKを獲得したことで決まった。この試合前半のピョンテクは、これまで以上にジャンパオロのスタイルに必要なFWの動きを多くこなそうというプレーを見ることができ、それらのプレーの質を上げていきながらコンスタントに得点も重ねていくことが今後の課題である。

 

ジャンパオロのフットボールにおいてサイドのオーバーロードアイソレーションアタックはメインとなる攻撃パターン(オーバーロードにするのはボールを失った直後の守備のアプローチとしても重要)だが、4-3-1-2というシステムではこれをスムーズにこなせる選手の配置になっている。

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ジャンパオロの基本的プレーモデルの記事内で使用した画像

4-3-3へとシステムを変更したジャンパオロだが、このような基本となるスタイルは変わらない。4-3-3ではアイソレーションサイドに突破力に優れたウイングを配置することができるため、この攻撃はチームとしてよりチャンスを生み出すために重要なものになってくる。基本は細かいテクニックを持っていて対角にパスが出せるスソを配置した右サイドをオーバーロードサイドとして、左サイドをアイソレーションサイドとするが、この試合でのミランは左サイドに縦への推進力があるテオ・エルナンデスとレオンを起用しているため、この傾向はより強く、チームとしての強みにもなる。

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この試合のミランはこのようなパターンを何度も見せており、ジャンパオロは4-3-3というシステムでも自身のゲームモデルを運用することができるというところを見せてくれた。さらに、ポゼッションをしながら縦にはやく仕掛けるジャンパオロのスタイルにおいてひとつの攻撃パターンとなってきそうなのがプレッシング誘発からの擬似カウンターで、これについても今後再現性のある攻撃パターンになってきそうではある。

 

前半はこれらの攻撃スタイルをひたすら見続けることができたのが大きな収穫で、これらのプレーを再現性のある攻撃としてチームで共有できていた、というところが見えてきたのは結果に関わらずかなりポジティブな内容だったといえる。とはいえ、個々の判断ミスも多く、まだまだ戦術の浸透には時間がかかりそうではある。

 

 

前半/ミランのボール非保持

4-3-1-2から4-3-3に変更したことで守備体系も少し変わってくるが、基本は変わらない。ファーストプレスからサイドに誘導していくが、サイド誘導後ボールホルダーに寄っていく相手中盤の選手についていき中央を経由してのサイドチェンジをさせない守備は、4-3-1-2ではトップ下の選手のタスクであったが、4-3-3ではFWのピョンテクがそのタスクをこなす。

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トリノミランのSB裏のスペースにFWを走らせるがドンナルンマ、ロマニョーリ、ムサッキオがうまく対応してチャンスらしいチャンスをつくらせず前半を終えた。

 

後半/ミランのボール非保持

 ミラン相手にほとんどいいプレーが出来なかったマッツァーリは後半から選手の配置を変えてくる。アイナを攻撃時には一列あげ、ヴェルディをサイドに置いた4-4-2へ変えたことで後半のミランは苦しむことになる。

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前半のトリノミランのSBへのプレッシャーがワンテンポ遅れること、そのプレッシャーに行ったところでWB裏を使われること、1対1の局面でほとんど勝てずサイドで数手優位も作れないため攻撃が詰まってしまうことなどで苦しい試合展開になっていたが、この4-4-2への変更でそれらを解決する。

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アイナとヴェルディでSBをマンツーマンでみて、ベナセルはFWとリンコンの運動量でなんとかカバーする。WB裏のスペースを使われていたのもサイドにもう一枚SBを置くことでケア。CBの枚数が減ることになるがピョンテクのポストプレーからボールを進められることはほとんどないため、そこまでリスク管理をする必要もない。前からプレッシャーをかけられたミランは前半のようにボールを前進させていくことが難しくなり、ロングボールを使って前線の選手にボールを進めようとするが、これもマッツァーリにとっては想定内で、ミランがリードしている展開ではあるものの試合をコントロールさせず、試合をオープンな展開にさせられる。

さらに後半12分にリャンコに代えてアンサルディ、21分にヴェルディに代えてべレンゲルを投入することでより攻撃的な姿勢をみせる。ジャンパオロとしては疲れが出てきたチャルハノールと、守備強度に問題があり自陣に戻れなくなってきたレオンのいる左サイドの守備において運動量を確保するため、さらにはオープンな展開を抑えボールキープができ試合を落ち着かせられそうなボナベントゥーラをレオンに代えて投入する。これは縦への推進力という点では控えにレビッチを残してあることも影響しているように感じる。

トリノの同点弾はカウンターからベロッティとムサッキオの1対1の状況を作られ、そのままベロッティに決められた。2点目はアンサルディから素晴らしいサイドチェンジで逆サイドに展開され、4-4-2でサイドアタッカーを配置したことでカラブリアが釣られてしまい、CB2枚対ベロッティ、ザザのFW2枚の局面を作られて失点。ミラントリノの4-4-2変更に対してうまく対応できずあっという間に逆転されてしまった。

 逆転されたミラントリノが引きこもることを想定して、後方での数的優位よりも前線の枚数を増やす決断。すでにイエローカードをもらっているアンカーのベナセルに代えてレビッチを投入して4-2-4の形で得点を狙いにいった。試合終盤に2つ決定機を迎えたがいずれも決められず、ポジティブな前半から打って変わって痛い敗戦となってしまった。

おわりに

ポジティブな内容だった前半終了時点では、このまま勝利で終わることができればチームは乗ってくるだろうと思っていたが、この敗戦は非常に痛い。ただ前半は今季ここまでの試合でいちばんの内容であり、4-3-3でもジャンパオロのスタイルを表現できることがわかったのはかなりポジティブではある。おそらくこの後数試合は4-3-3で継続していくだろうし、さらに戦術理解を深めながら結果を残していければ、と思う。そしてジャンパオロは前半のプレーを継続していけばチームは強くなるということを選手たちに信じ込ませなければならない。勝つことができれば言葉はいらなかったのだが。