【ズラしズラされて生きるのさ】セリエA 第12節 ユベントス×ミラン

・はじめに

前節ラツィオにも負け、降格圏のほうが近い順位にいるミラン。ここからのユベントスナポリパルマボローニャとの4試合の結果次第では残留争いに巻き込まれながらシーズン前半を終えることになるため、なんとしてでも結果が欲しいところ。先がないハチャメチャフリーダムフットボールから1試合でもはやく抜け出してほしい。

 

・フォーメーション

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ミランは前節同様ケシエではなくクルニッチをスタメン起用、スソもスタメン復帰して4-3-2-1を採用。ユベントスはいつも通り4-3-1-2を採用、ロナウドイグアインの2トップと中盤を運動量で繋ぐためベルナルデスキがトップ下にはいった。

 

・前半/ミランのボール保持

ミランは前節ラツィオ戦からクルニッチを起用しているが、それと同時にSBアシンメトリー型の3-2ビルドアップからオーソドックスな4-1あるいは4-2ビルドアップへと変更。これまでは常にテオが高い位置を取り続けることによる背後のスペースをケシエの運動量で補う構造だったが、オーソドックスな形に戻したことでトランジション時のスペース管理はある程度楽になった。ラツィオ戦では後ろから繋ぐビルドアップは避けて前線にロングボールを送り、マンマーキング気味のプレッシングによってショートカウンターでゴールを目指そうという意図が見えたが、うまくハマったのは前半20分間のみで、結果的にはこの殴り合い上等フットボールの悪いところが出て敗戦した。しかし、この試合のミランは後ろから繋ぐセットオフェンスにおいて、再現性のある攻撃をみせた。

ユベントスは4-3-1-2でミランのCBと2トップ、アンカーのベナセルとベルナルデスキを噛み合わせてくる。SBに対してはIHがプレスをかける形だが、ミランはクルニッチのポジショニングによってこの噛み合わせをズラしていく。クルニッチが降りて4-2ビルドアップの形をとることで、ベンタンクールはテオとクルニッチの2人をケアすることを求められる。ミランは前半、このテオとクルニッチでビルドアップを安定させることに成功した。

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ミランはテオとクルニッチでビルドアップを安定させた後、テオ、クルニッチ、チャルハノールによるチャンネル侵入アタックとサイドチェンジによるワイドな攻撃をみせる。

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チャルハノールとクルニッチのチャンネル侵入→サイドチェンジからワイドな崩しをみせるこの試合でいちばんの素晴らしい攻撃もみれた。

 

 ミランはこのビルドアップからのチャンネル侵入、ワイドアタックによってユベントス相手に主導権を握りながら試合を進めることができたが、ゴールが生まれなかったのが痛かった。

 

・前半/ミランのボール非保持

 ボール非保持時はこれまでと特に変わらず、マンマーキング気味のプレッシングだが、この試合はユベントスの4-3-1-2に対して、ミランも4-3-1-2気味でプレスをかける。SBに対してIHが出て行ってプレスをかけるのはミランも同じで、IHが出ていったあとのボールサイドの相手IHに対してはアンカーのベナセルが出ていく。

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ユベントスはビルドアップの逃げ道としてロナウドやベルナルデスキがサイドに流れてボールを受けることで前進。ロマニョーリを動かしてズレをつくり、イグアインが侵入するパターンで崩していくが、これはジャンパオロのミランがやりたかった攻撃パターンのひとつで、複雑な気分になる。

 

 

両チームともチャンスはつくるが得点決まらずに前半を終えた。

 

・後半/ミランのボール保持

 前半はいい攻撃の形を見せていたミランだったが、そのアグレッシブなプレッシングによって前半のうちにスタミナ切れになるのはいつものパターン。前半にみせていたチャンネル侵入の動きがなくなり、それによってユベントスの守備ブロックを乱すこともできず、時間もスペースも生まれないからサイドチェンジを使ったワイドアタックもみられなくなる。これまでのミランと全く同じような攻撃になってしまう。

 

こうなると前半に比べてゴールも遠ざかり、結局無得点で試合を終えた。

 

・後半/ミランのボール非保持

プレッシングの持続性が保てなくなるとユベントスに簡単にボールの前進を許し始める。さらにロナウドに代えてディバラを投入されたことでリンクマンとしてスムーズにボールを循環されるようになり、ベルナルデスキに代えてコスタ投入で、ドリブルでも崩されるようになる。

ミランはクルニッチに代えてボナベントゥーラを投入して4-2-3-1へとシステム変更。ボナベントゥーラにはCBへのプレスとピャニッチを消すことを求められたがベンタンクールが降りてくるなどされ機能しなかった。最後はサッリのユベントスが練習してる通りの菱形で崩されて失点。ユベントス相手に良い試合をしたが、結局敗戦となった。

 

・おわりに

ピオーリ就任後、はじめてチームとして再現性のある攻撃ができた試合で、これまでのようなハチャメチャフリーダムフットボールではないものが見られたことは満足できる。これがユベントスという相手を特別に意識した結果で、刹那的でないことを祈るしかない。それにこのプレッシング構造を続けることで、前半で試合を終わらせなければいけない展開になってしまうのも問題である。リトリート守備もかなり脆い。問題点はまだまだ山積みだが、ようやくチームとしての良い形がみえたのは監督、選手ともに手ごたえを感じているはずで、代表ウィークを挟んでの次節以降も継続してチームの成長が見られればうれしい。またハチャメチャフリーダムフットボールに戻っていたら、もうゲームオーバーだ。

【組織がないなら殴り合え】セリエA 第11節 ミラン×ラツィオ

・はじめに

前節SPAL戦でなんとかピオーリ体制初勝利をあげたミラン。相変わらずのハチャメチャフリーダムフットボールっぷりで地獄のような内容だったが、勝てたことはチームにとっては大きい。今節の相手は近年継続したシモーネ体制で安定した結果を残しているラツィオラツィオの組織をどこまで個で殴れるかが勝負の分かれ目となる。

 

・フォーメーション

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ミランはケシエに代わってクルニッチ、負傷したスソとムサッキオに代わってカスティジェホとドゥアルチがスタメン。ラツィオはいつものメンバー。

 

・前半/ミランのボール保持

ピオーリ体制になってからテオが高い位置を取りCBと右SBで3バック化+ダブルボランチによる後ろからの3-2ビルドアップが基本となっていたが、この試合では後ろから繋ぐ意識は薄く(後ろから繋ぐ場合基本テオは通常の位置で4-1ビルドアップ)、前線の選手へのロングボールによってボールを進めていくことを目指した。セットオフェンスの質がかなり低いピオーリのミランだが、後述するようにできるだけ攻守を相手陣内でプレーすることを目指し、ラツィオのビルドアップをマンマーキングでハメにいくことである程度殴りあう覚悟だ。これに関してはミランの現状と対戦相手を考えれば納得できる戦い方だった。

 

・前半/ミランのボール非保持

ミランラツィオの後ろからのビルドアップに対して前からハメにいく姿勢をみせる。ラツィオの両脇CBに対してWGのカスティジェホとチャルハノールがサイドへの誘導プレッシング、WBにはSBがそのまま前に出て対処、IHに対してはマンマーキングでついていく。アンカーのルーカス・レイバに対してもできるだけベナセルが前にでて対処。かなり前がかりなプレッシングをみせた。

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前半20分くらいまではミランのプレッシングが機能、ボール奪取からチャンスをつくることもできていた。16分頃からラツィオはビルドアップの逃げ道となっているセルゲイへのロングボールで前進を目指し始めるが、肝心のセルゲイが思ったほどボールをおさめることができず苦戦。20分間はミランの時間が続いた。

 

 

20分を過ぎてくると前がかりのミランに対してアルベルトがCB-MF間でボールを受ける動きをみせ始める。

 

ラツィオはビルドアップで左WBのルリッチをうまく使い始める。ラツィオ得意の形からの攻撃に対してミランはカウンターを仕掛けるが、ボールを失うとインモービレがテオのスペースへポジショニング。そのままテオのスペースを使われてあっさり失点。ラツィオが先制した。

 

 

・後半/ミランのボール非保持

前半のうちにバストスのオウンゴールで同点にしたミラン。後半も似たような展開が続いたが、ミランの前がかりプレッシングは体力的な問題で試合終盤まではもたない。ある程度後ろから繋げるようになったラツィオは、60分にセルゲイに代えてパローロを投入することで守備のバランスを整え、得意の左サイドアタックがあまり機能しなくなってきた為(コンディションの問題もありそうだが)インモービレに代えてカイセドを投入。セルゲイが担っていたビルドアップの逃げ道という役割とターゲットマンとしての役割を期待した。同点のまま迎えた83分にミランのプレッシングの甘さからカウンターを食らってラツィオが勝ち越し。そのまま試合終了でミランは鬼の3連戦を黒星のスタートとなった。

 

 

・おわりに

以前の記事で書いたように、ピオーリのミランは選手の配置も、個々のポジショニングも動きも、全体としてのリスク管理もグダグダだ。そんなグダグダを前提とするなら、ピオーリは最善の選択をとっているといえるのかもしれない。それでも何度も言うように、昨季でガットゥーゾとお別れしたのはチームの戦術的、あるいは技術的な進歩のためだ。こんなことではチームの進歩はあり得ないではないかと、もはやどこにぶつけたいいかわからないモヤモヤを、少なくともあと半年以上は抱きながら観戦することになりそうなのが非常に憂鬱である。

ジャンパオロからピオーリへ

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ジャンパオロが解任され、ピオーリが新監督に就任。ジャンパオロが取り組んでいたフットボールは、選手たちは理解できず、フロントは我慢できず、結局チームに何も残らずに終わった。新監督であるピオーリは、ジャンパオロのフットボールが理解できず苦しんでいた選手たちにまずは気持ち良くプレーしてもらうために、選手の特性を考慮したうえで4-3-3あるいは4-2-3-1の亜種である3-2-4-1という大枠を与える。

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まずはテオ・エルナンデスの攻撃性を最大限開放するためにボール保持時はアシメSBになり、左のテオが上がり右のコンティは下がり3バック状態になる。ある程度のボール供給ができるロマニョーリが高い位置を取れるのも狙いとしてある。その3バックの前にダブルボランチという形でビリアとケシエを配置。ケシエはファイナルサードでの精度の低いプレーからひとまず離れてもらい、総合的なフィジカル能力を持って攻守のバランスを保つ役割を担う。ビリアはケシエと共に攻守のバランスを取りながら最終ラインと前線を繋ぐ役割を担う。前線ではテオ、チャルハノール、パケタ、スソに加えてレオンが5レーンを意識したポジショニング。形だけでいえば、初期ペップシティのサリーダでCBを開かせてSBが内側に絞ってできる3-2+中盤以降の選手による4-1と同じになる。

さて、ここまでピオーリは選手の特性を活かした大枠をうまく与えた印象だ。確かに選手たちは自分たちの得意なプレーエリアでプレーできる。そしてピオーリは前線の選手たちに自由を与える。「今までジャンパオロの戦術のもとで動きが縛られていたのだろう。まずは自由にプレーしてみなさい。貴方たちは個人能力はあるのだから、気持ち良くプレーできればある程度の勝ち点は見込めるだろう。」というところだ。うまくシーズンを過ごせず停滞してるチームに途中就任した監督の常套手段であり、まずは自信を持ってプレーさせること、これが大事であり、よく言われる解任ブーストとやらにも繋がる。

 

ただ、ガットゥーゾ時代に私が散々嘆いていたことは監督にも選手にも、盤面を修正できる人が、局面を打開できる人がいないことだ。試合前の準備こそあるが、試合中に修正ができない。個人能力はあっても、局面を打開するような戦術的な動きは皆無。そういうチームだったのだ。そうしたチームを、長期的にみてより良いチームにしていく為にガットゥーゾではなくジャンパオロを連れてきたのだ。(このブログで書いてきたように)ジャンパオロのフットボールを理解したうえでプレシーズンから観ていれば、チームは変わろうとしているんだ、というのが理解できる。例えばビルドアップの局面は大幅に改善された。プレシーズンからジャンパオロは、中央を封鎖する相手に対してMEZの選手をワイドに開かせて相手が付いてくれば中央が空く、付いてこなければそこが基点となるビルドアップの動きを仕込んでおり、シーズン開幕後も数的同数でマンツーマン気味に前から守る相手に対してケシエを下げ、チャルハノールを上げることで相手の守備の基準をズラしていく形も見せた。GKからのビルドアップでもケシエとチャルハノールを下げ、ベナセルを上げてFWに当てることで、セカンドボールを拾えれば擬似カウンターに、マイボールに出来なければそのままベナセルが下がってリトリート守備にすんなり移行できる、という形を見せた。選手の配置と動きにやって相手の守備をズラしていくことで局面を優位に進めていく、ということをジャンパオロは選手たちに教えていた。そうした動きで局面を優位に進めることができるということを、自分たちではどうにもできない選手たちに早く学んでほしかった。ただ、今までこうした戦術的な動きを求められたことのない選手たちはすんなりと飲み込めず、ジャンパオロもマネジメントの部分でミスが出始める(パケタの件など)と、チーム内外で不満が出て、結果長期的なプランで招聘したはずのジャンパオロを7試合で解任することになった。

 

 

さて、話をピオーリに戻すと、彼は選手たちに自信を取り戻してもらうために、3-2-4-1という大枠を与え、前線の選手には自由を与えた。レッチェ戦、一見するとチームが大幅に改善したかのように見えたかもしれない。驚くほどに酷い内容だったレッチェに対して、前半のミランの選手たちは自信を持ってプレーしていた。これが自由にプレーさせた効果だろう。しかし、攻守においてまるで整備されておらず、特に再現性のある攻撃もなかった。戦術的には明らかな後退である。結果的にドローで終わってしまった。

そしてローマ戦、ミランは変わらずに3-2-4-1である程度自由にプレーするが、相手はローマであって個人能力で殴り続けられるわけではない。ミランの3-2ビルドアップに対して、ローマは4-1-4-1(4-3-3)で中央を封鎖、サイド誘導で両脇CBからサイドの選手にボールが出たところをボール奪取ゾーンに設定。初手で、中盤経由あるいはサイドの選手につけて横のレーンの選手と崩そうとするミランのビルドアップを封じようとしたローマに対して、ミランはなにも解決策が出せない。そして気が付けば中央に集まりペナ幅で5人が横並びする地獄のような光景まで見れた。初期配置は5レーンを意識したのかもしれないが、選手たちが意識してプレーしている姿はまるで見られない。チームとしての攻撃はガットゥーゾの時よりも質が悪い。

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 何度も言うようにミランは個の質である程度殴れるだけの能力はある。しかし個の質頼りから脱却して組織の中で個を活かすチームになれるように、ガットゥーゾから変えて前へ進もうとしたのではなかったのか。これではさらにチームを強くするために個の質をアップデートし続けなければ、つまりお金を使い続けなければならない。そしてそれが決して前へ進むためのいちばんの近道ではないことは、多くのクラブが、そしてもちろんミランも示してきているはず。

 

 

 

 

 

ジャンパオロがうまくいっていたわけではない。ピオーリがここからチームとしての質を高めてくれる可能性がないわけではない。そしてこれでまったく勝てないチームになるわけでもない。ただ、戦術的にみればチームは明らかな後退であり、今の段階ではミラン復権への道は遠ざかったという印象を受けざるを得ない。今後1か月の厳しい日程をポジティブな結果で終わることをただただ祈るしかない。

【ジャンパオロの色が出てきたミランとマッツァーリの4-4-2変更】セリエA 第5節 トリノ×ミラン

はじめに

前節のミラノ・ダービーではチームとしての狙いがいまいち見えてこず、すべてがチグハグなままあっさりと敗戦。いまだにチームとしての完成度は上がってこず、システムの最適解を探しながらの戦いが続いている。開幕から4試合で2勝2敗はある程度想定内の結果ではあるが、ここからの厳しいトリノ戦、フィオレンティーナ戦がチームの結果としては重要になってくる。ジャンパオロはどのようなシステムを選択して自身のフットボールを表現していくのだろうか。

フォーメーション

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ミランインテル戦前半途中に4-3-1-2から4-3-3に変更。守備体系が変わらない4-3-1-2の亜種ではなく、オーソドックスな4-3-3を採用した。スタメンには新戦力であるテオ・エルナンデスやベナセル、レオンなどが入った。

トリノは3-4-1-2を採用。ミランの攻撃のカギとなる中盤3枚とがっつり噛み合わせてくる形をとってきた。

 

この記事はジャンパオロの基本的なプレーモデルを踏まえた分析になります。より深く理解するためには合わせて読んでいただくことを強くお勧めします。

 

前半/ミランのボール保持

ミランのビルドアップ時、トリノががっつりマンツーマンで噛み合わせてくるのはインテルと同じ。ミランはWBからのプレッシャーがワンテンポ遅れてくるSBでポゼッションを安定させる。

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得点はカラブリアにWBのアイナがプレッシャーをかけてきたところを、その裏のスソにボールを送りこんだところからチャンスを作り出し、ピョンテクのクロスにエリア内のレオンが倒されPKを獲得したことで決まった。この試合前半のピョンテクは、これまで以上にジャンパオロのスタイルに必要なFWの動きを多くこなそうというプレーを見ることができ、それらのプレーの質を上げていきながらコンスタントに得点も重ねていくことが今後の課題である。

 

ジャンパオロのフットボールにおいてサイドのオーバーロードアイソレーションアタックはメインとなる攻撃パターン(オーバーロードにするのはボールを失った直後の守備のアプローチとしても重要)だが、4-3-1-2というシステムではこれをスムーズにこなせる選手の配置になっている。

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ジャンパオロの基本的プレーモデルの記事内で使用した画像

4-3-3へとシステムを変更したジャンパオロだが、このような基本となるスタイルは変わらない。4-3-3ではアイソレーションサイドに突破力に優れたウイングを配置することができるため、この攻撃はチームとしてよりチャンスを生み出すために重要なものになってくる。基本は細かいテクニックを持っていて対角にパスが出せるスソを配置した右サイドをオーバーロードサイドとして、左サイドをアイソレーションサイドとするが、この試合でのミランは左サイドに縦への推進力があるテオ・エルナンデスとレオンを起用しているため、この傾向はより強く、チームとしての強みにもなる。

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この試合のミランはこのようなパターンを何度も見せており、ジャンパオロは4-3-3というシステムでも自身のゲームモデルを運用することができるというところを見せてくれた。さらに、ポゼッションをしながら縦にはやく仕掛けるジャンパオロのスタイルにおいてひとつの攻撃パターンとなってきそうなのがプレッシング誘発からの擬似カウンターで、これについても今後再現性のある攻撃パターンになってきそうではある。

 

前半はこれらの攻撃スタイルをひたすら見続けることができたのが大きな収穫で、これらのプレーを再現性のある攻撃としてチームで共有できていた、というところが見えてきたのは結果に関わらずかなりポジティブな内容だったといえる。とはいえ、個々の判断ミスも多く、まだまだ戦術の浸透には時間がかかりそうではある。

 

 

前半/ミランのボール非保持

4-3-1-2から4-3-3に変更したことで守備体系も少し変わってくるが、基本は変わらない。ファーストプレスからサイドに誘導していくが、サイド誘導後ボールホルダーに寄っていく相手中盤の選手についていき中央を経由してのサイドチェンジをさせない守備は、4-3-1-2ではトップ下の選手のタスクであったが、4-3-3ではFWのピョンテクがそのタスクをこなす。

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トリノミランのSB裏のスペースにFWを走らせるがドンナルンマ、ロマニョーリ、ムサッキオがうまく対応してチャンスらしいチャンスをつくらせず前半を終えた。

 

後半/ミランのボール非保持

 ミラン相手にほとんどいいプレーが出来なかったマッツァーリは後半から選手の配置を変えてくる。アイナを攻撃時には一列あげ、ヴェルディをサイドに置いた4-4-2へ変えたことで後半のミランは苦しむことになる。

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前半のトリノミランのSBへのプレッシャーがワンテンポ遅れること、そのプレッシャーに行ったところでWB裏を使われること、1対1の局面でほとんど勝てずサイドで数手優位も作れないため攻撃が詰まってしまうことなどで苦しい試合展開になっていたが、この4-4-2への変更でそれらを解決する。

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アイナとヴェルディでSBをマンツーマンでみて、ベナセルはFWとリンコンの運動量でなんとかカバーする。WB裏のスペースを使われていたのもサイドにもう一枚SBを置くことでケア。CBの枚数が減ることになるがピョンテクのポストプレーからボールを進められることはほとんどないため、そこまでリスク管理をする必要もない。前からプレッシャーをかけられたミランは前半のようにボールを前進させていくことが難しくなり、ロングボールを使って前線の選手にボールを進めようとするが、これもマッツァーリにとっては想定内で、ミランがリードしている展開ではあるものの試合をコントロールさせず、試合をオープンな展開にさせられる。

さらに後半12分にリャンコに代えてアンサルディ、21分にヴェルディに代えてべレンゲルを投入することでより攻撃的な姿勢をみせる。ジャンパオロとしては疲れが出てきたチャルハノールと、守備強度に問題があり自陣に戻れなくなってきたレオンのいる左サイドの守備において運動量を確保するため、さらにはオープンな展開を抑えボールキープができ試合を落ち着かせられそうなボナベントゥーラをレオンに代えて投入する。これは縦への推進力という点では控えにレビッチを残してあることも影響しているように感じる。

トリノの同点弾はカウンターからベロッティとムサッキオの1対1の状況を作られ、そのままベロッティに決められた。2点目はアンサルディから素晴らしいサイドチェンジで逆サイドに展開され、4-4-2でサイドアタッカーを配置したことでカラブリアが釣られてしまい、CB2枚対ベロッティ、ザザのFW2枚の局面を作られて失点。ミラントリノの4-4-2変更に対してうまく対応できずあっという間に逆転されてしまった。

 逆転されたミラントリノが引きこもることを想定して、後方での数的優位よりも前線の枚数を増やす決断。すでにイエローカードをもらっているアンカーのベナセルに代えてレビッチを投入して4-2-4の形で得点を狙いにいった。試合終盤に2つ決定機を迎えたがいずれも決められず、ポジティブな前半から打って変わって痛い敗戦となってしまった。

おわりに

ポジティブな内容だった前半終了時点では、このまま勝利で終わることができればチームは乗ってくるだろうと思っていたが、この敗戦は非常に痛い。ただ前半は今季ここまでの試合でいちばんの内容であり、4-3-3でもジャンパオロのスタイルを表現できることがわかったのはかなりポジティブではある。おそらくこの後数試合は4-3-3で継続していくだろうし、さらに戦術理解を深めながら結果を残していければ、と思う。そしてジャンパオロは前半のプレーを継続していけばチームは強くなるということを選手たちに信じ込ませなければならない。勝つことができれば言葉はいらなかったのだが。

【なにも出来なかったミラン、収穫はなし】セリエA 第4節 ミラン×インテル

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【前半でプラン変更 4-3-3でもぎ取れ勝ち点】セリエA 第3節 エラス・ヴェローナ×ミラン

はじめに

代表ウィークを挟んでのジャンパオロ・ミラン3試合目。これまでのジャンパオロであればこの時期を使って少しでもチームの完成度をあげていくところだが、ほとんどの主力が代表に招集されてしまい、コンディション不良のままギリギリでチームに戻ってくるミランのようなチームではそれは難しく。前節のように、昨季の戦力を中心にある程度誤魔化しながら勝ち点を拾っていくような試合になると予想された。メディアではシステムを4-3-3にするのか、いやいやまずは4-3-2-1だろう、などと大いに盛り上がっていたが、この試合でもジャンパオロの選択はあくまで4-3-1-2であった。

フォーメーション

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ミランは前節と同じく4-3-1-2の亜種。最終ラインは同じメンバーで、アンカーにはビリアが入る。前節はカスティジェホが入ったトップ下にはパケタが入って、スソとピョンテクのコンビも同じ。

昇格組であるヴェローナは3-4-1-2を採用。ここまで1勝1分といいスタートを切っている。

 この記事はジャンパオロの基本的なプレーモデルを踏まえた分析になります。

 

前半/ミランのボール保持

 ミランヴェローナの選手の配置的に中央はがっつり噛み合わせが合うため、ある程度ボールを持ちやすいSBからボール前進を狙うミラン。特にスソがサイドに流れていることもあり、WBや中盤からのプレッシャーが遅くなるカラブリアはボールを持ちやすい。ミランカラブリアからズレを作りつつ、いい形でパケタにボールを渡したい。

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 この試合では前節のようなスソのいる右サイドのオーバーロードアイソレーションによるアタックというよりも、開幕節のように(つまりジャンパオロ本来の形のように)ヴェローナの中盤を引き出して、その裏でパケタやスソがボールを持てるようにしようという意図がなんとなくみえた。ヴェローナはライン間でプレーしようとする選手にはCBが前へ出て対応。

 

 ここまではスソが基本的には右サイドへ位置しているが、前節よりも中央でのプレーも意識しているようにみえ、どうにか中央、あるいは右サイドから崩そうという狙いがあったが、まだ具体的な崩しのアイデアを共有できておらず、なかなか崩し切ることはできないという印象だった。前半21分にヴェローナのステピンスキが退場したことによって、ミランはこれらの用意してきた狙いができなくなる。

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 退場者を出したヴェローナはすぐさま5-3-1で完全撤退。ミランが使えるスペースはほとんど無くなることになる。

 

 

 やはりスペースを消されるとより攻略が厳しくなってくるミランにおいて、パケタは徐々に自分がなにをすべきかがわからなくなっていき、試合から消えていったまま前半は終了した。

 

後半/ミランのボール保持

 後半開始とともにパケタに代えてレビッチを投入したミランはシステムも4-3-1-2から4-3-3へと変更。このシステム変更により、5-3-1で徹底的に守るヴェローナ相手にパケタに中央でスペースを与えるように動いていたチャルハノールやケシエがより高い位置で攻撃に絡むことが可能。基本はWGとSBのコンビにIHが絡むことで崩していこうという狙い。ミランでいちばんチャンスになりやすいスソからのクロスは、前半はピョンテクとたまにパケタがエリア内で待機しているくらいだったが、後半には両IHとレビッチまでもが絡むことができるようになった。5-3-1で守るヴェローナに対してバランスよく選手を配置して、ミランはなんとか得点をもぎ取りたい姿勢をみせた。

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このシステム変更によってミランはPK獲得、ピョンテクが初ゴールを決める。ヴェローナを押し込んだ状態で左右にボールを動かし、中盤3枚をスライドさせてスペースを生み出そうとするミラン。ボールが左右に動くたびにピョンテクのマークの受け渡しをするヴェローナの2CBと、エリア内に入ってきているレビッチをマークするCBは、中央バイタルエリアに入ってくるチャルハノールを潰しにいけず、チャルハノールは一瞬前を向く余裕ができる。そこからピョンテクとのワンツーから放ったシュートがヴェローナCBの手に当たってPKを獲得。

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 先制したミランは無理することなく、終了間際にカラブリアの退場というアクシデントこそあったが、そのまま試合を終わらせて2連勝。まずまずの結果で次節はダービーを迎えることになる。

 

おわりに

 試合開始時はジャンパオロの4-3-1-2で中央を攻略する狙いをみせたミランだったが、ヴェローナに退場者が出て5-3ブロックで引いて守られてからは攻撃が機能せず。後半から4-3-3にシステムを変更して選手の配置と役割を変えたことでなんとか勝ち点3をもぎ取った。代表ウィーク明けで、戦術浸透にも選手のコンディションにも不安があるなかで勝てたのは大きい。さあ、これからジャンパオロのゲームモデルも少しずつチームに浸透していくか?というところで次節はコンテ就任のインテルとのミラノ・ダービー、その次はアウェーで難敵トリノ、その次はまだ結果こそ出ていないが怖い存在であるフィオレンティーナ。戦術理解を深めながらも、この3連戦でなんとか2勝はしたいところ。ジャンパオロにとって最初の試練となりそうだ。

 

 

第1節 ウディネーゼ


第2節 ブレシア


【エースを活かす配置の最適解を求めて】セリエA 第2節 ミラン×ブレシア

はじめに

ジャンパオロ・ミランの2試合目。前節はジャンパオロの色こそ出たが、その完成度はまだまだ低く、トップ下に入ったスソは攻守において低調なパフォーマンス。点を取れずにセットプレーでやられる痛い黒星スタートとなった。試合後、システムの変更が示唆されたが、これまでのキャリアでジャンパオロは4-3-1-2システムにこだわり続けた男でもある。そんなジャンパオロに1試合でシステム変更を匂わす発言をさせるとは、さすがミラン、というところであった・・・。が、実際試合に入ってみれば、やはりそれは変則的な4-3-1-2であった。これはジャンパオロの妥協か、チームの最適解か。

フォーメーション

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ミランは表記上は4-3-2-1ともできそうだが、ジャンパオロはスソをFWでプレーさせたと試合後に語っており、守備体系も4-3-1-2であったため、ここでは4-3-1-2表記にする。新加入のベナセルがスタメンに入り、前節アンカーでプレーしたチャルハノールは得意のMEZに配置。右サイドにカラブリア、ケシエ、スソを置いて、昨季までの連携を活かす。完全に構想外にされていそうだったアンドレ・シウバのスタメン起用は驚いた。

昇格組であるブレシアも4-3-1-2を採用。前節カリアリ相手にPKでの1点を守り切って勝利したが、相手がアウェイでのミランともなればそう簡単にはいかないはず。

 この記事はジャンパオロの基本的なプレーモデルを踏まえた分析になります。

 

 前半/ミランのボール保持

 この試合は表記システムの噛み合わせ的に両チームとも4-3-1-2を採用したミラーゲームになるかと思われたが、そんな噛み合わせをジャンパオロは選手の配置によって悉くズラしていく。後ろからのビルドアップは2CB×2FW、アンカー×トップ下の数的同数でがっつり噛み合わせが合うため、空いているSBに逃げたくなるが、ミランはケシエがベナセルの横に落ちることで4対3の状況を作り出す。これに対してブレシアのMEZは付いていかず、SBへのプレスというタスクも与えられていたため、カラブリアもケアしながらケシエもなんとなくみる、という微妙な位置にいることが多かった。チャルハノールは中央寄りに立ち、FW起用のスソは常にお得意の右のタッチライン際に配置。カスティジェホはスソのいた位置の近くへ。基本的にはスソのいる右サイドからの攻撃を試みる。

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ゴールキックの時にはベナセルが上がり、ケシエとチャルハノールの2人が落ちるという形をみせた。

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ミランの攻撃はスソのいる右サイドをケシエ、カラブリア、カスティジェホも絡んだオーバーロードでのコンビネーションによる崩しと、左サイドのアイソレーションでスソのサイドチェンジからR・ロドリゲスがボールを持ち、アンドレ・シウバやカスティジェホが相手SB裏スペースへ飛び込むという形が基本。右サイドのスソ、ケシエ、カラブリアは昨季まで4-3-3の右サイドを担当していたので選手間の連携はしっかり取れている。

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前半のミランは相手CB-SB間をズラして、スペースを作り出してそこに飛び込むという形で何度かチャンスは作った。チームでいちばんのチャンスメーカーであるスソを右サイドでワイドに張らせることを前提にしているため、右のオーバーロードから左は速くシンプルな攻撃で崩していくことを目指していた。サイドスペースへの飛び込みとそこからの展開を考えると、ピョンテクではなくアンドレ、右でオーバーロードに参加してから左で飛び込む運動量を持っているカスティジェホがトップ下という選択は悪くない。そしてパケタはまだチャルハノールほど細かいポジショニング修正ができず、トップ下起用は前節のようなトップ下の役割であればまだあり得るが、スソを前提としたこの試合でのトップ下の役割はおそらく厳しい。さらにコンディション的にも不安があるためベンチスタートは十分理解できる。こうしてスタメン選考の理由が試合を通して少しずつ明らかになってくる。

 

 

結果的には右サイドでのコンビネーションでスソがスペースに飛び出し、その後のスローインからスソのクロスをチャルハノールが合わせてミランがこの試合の決勝点となる1点を取った。

 

前半/ミランのボール非保持

前節はミランのサイド限定プレッシングによるボール奪取ゾーン誘導が、ウディネーゼの配置とトップ下に入ったスソの残念な出来(中央アンカーへのコースを切れずプレスの強度もなくやられ放題だった)によって崩壊、特に後半はボロボロだったが、この試合はスソをFWとして起用しているため守備負担を軽減できる。スソの代わりにトップ下に入っているカスティジェホは運動量も豊富で守備意識も高い。ミランはミラーゲームによる噛み合わせを配置でズラして攻撃していたが、ブレシアはそのままビルドアップを試みる。それに対してこの試合のミランはマンマーキング気味の高い位置でのプレッシングによってボール奪取を試みる。これがうまくハマってブレシアは後ろからボールを繋ぐことがなかなかできなかった。攻撃時には噛み合わせをうまくズラし、守備時には噛み合わせをうまく使ったジャンパオロだった。

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後半/ミランのボール保持

 後半からブレシアは明確に前にでてくる。ミランのドンナルンマまでプレッシングを行ってきたため、後方でバタつく展開に。それならばと、あえて中盤を飛ばしてFWへのロングボールを蹴り始め、試合は少しずつオープンな展開になっていく。ミランアンドレポストプレーの役割を担うような展開になったため、ピョンテクを投入。チャルハノールに疲れが出てきたらパケタを投入。パケタがワイドに開くことでピョンテクへの楔を入れられるシーンが出てきた。そしてそれまでプレーの質自体は決して高くなかったが、攻守に献身的に動いていたカスティジェホに代えてボリーニ。なんとか試合を締めた。

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後半/ミランのボール非保持

 後半も守り方は同じ。1-0というスコアだったこともあり、各ポジションの運動量を選手交代などで維持しつつ、オープンな展開になっても最後のところでギリギリ失点を防いだ。

 

 おわりに

 ウディネーゼ戦から、今できることをしっかりと修正してきた印象。スソのポテンシャルを活かすためにサイド偏重ではあったが、オーバーロードアイソレーションでの崩しはジャンパオロのスタイルを踏襲。スソを右に置くことを前提としたスタメン選考とその配置は見事だったと思う。各選手のポジショニングの悪さは、そのままジャンパオロ・スタイルの浸透してなさだと思うからこれから少しずつ改善していけるだろう。ただ、この試合のような戦い方は必ず早い段階で限界がくるのとピョンテクとパケタを活かしきれない部分はあるので、このようにチームにいる選手の特徴を出せる配置を考えつつ、少しずつジャンパオロのゲームモデルの浸透を目指していってほしい。もちろん、誰もが我慢が必要なのは明らかだ。

 

 第1節 ウディネーゼ

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