【16-17シーズンを振り返る Part.1】ACミラン編
ミランにとって、今シーズン夏の移籍市場は寂しいものだった。シーズン開幕前には決まると思われていたクラブ売却が延期され続けた結果、ベルルスコーニからも中国サイドからも金を出してもらえなかった。候補に挙がっていたクアドラードやピアツァはユベントスへ移籍、ほぼ決まりかけていたムサッキオもお金が出せず破談。新監督就任までに決まっていたのは、セリエBの得点王ラパドゥーラと、謎のサイドバックバンジョーニの獲得のみ。昨夏あれだけ補強してシーズンを7位で終えたことを思うと不安でしかたなかったが、それでも個人的なわずかな希望を信じずにはいられなかった…。
・待望の指揮官モンテッラ
新シーズンをはじめるにあたって監督が誰になるのか、というのがまず最初の不安だった。噂になっていたのはエメリやジャンパオロ、ヴィラス=ボアスなどだった。エメリに関してはパリSG行きがほぼ決まっていた。そんな中新監督候補として急浮上したのがモンテッラだった。モンテッラはフィオレンティーナ時代から個人的に大好きな監督で、当時からモンテッラがミランに来ないか、来たらどうなるか、よく妄想していたくらいだ。そんなモンテッラのミラン監督就任が正式に決まった。まともに選手の補強が出来ない状態でも、わずかな希望を持たずにはいられなかったのだった。
・劇的な幕開け、しかし思うようには…
開幕戦の相手はトリノ。昨シーズンミランの監督だったミハイロヴィッチが監督だ。バッカのトリプレッタで3点を奪ったミランだったが、後半アディショナルタイムに1点差にされると、さらにパレッタがPKを与えて退場してしまう。しかし決められたらドローという状況の中、ミランの守護神ドンナルンマはベロッティのPKを止めたのだった。ドラマチックな幕開けとなったが、第2節ナポリ戦では2人の退場者を出し4失点、第3節ウディネーゼ戦はホームで0-1で敗れ2連敗。そううまくはいかなかった。
・新たな救世主、逆転劇を境に
連敗したミランだったが、その後はギリギリの戦いで勝ち点を稼ぐ。サンプドリア、ラツィオに勝ち、フィオレンティーナとはドロー。そして第7節サッスオーロ戦、先制したもののホームで3失点。完全に負け試合だと思われたがバッカのPKで1点差につめ寄ると、新たな救世主、当時18歳ロカテッリのゴールで同点に追いついた。その後パレッタのゴールで見事な逆転劇を見せ、今シーズンの粘り強さを象徴する試合となった。そしてキエーヴォ戦も勝ち、迎えたユベントス戦。またも貴重なゴールを決めたのはロカテッリだった。モントリーヴォが怪我で長期離脱する中、見事にスタメンの座をつかんだロカテッリのゴールで、絶対王者にも勝ったミラン。今シーズンはやはり、何かが違っていた。
・新戦力、ラパドゥーラの活躍
ユベントス戦後のジェノア戦をターンオーバーを用いて0-3で落としたミラン。しかし勢いは止まらない。ペスカーラとパレルモに連勝。ミラノダービーはアディショナルタイムに同点にされドローとなったが、続くエンポリ、クロトーネにも連勝。パレルモ戦での劇的ゴール、エンポリ戦でドッピエッタなど、これまでバッカの控えに甘んじていたラパドゥーラの活躍が光った。その後ローマ相手に敗戦、アタランタとスコアレスドローなど調子を落としてきたかなと感じていたが…。
・5年ぶり!涙のタイトル獲得!
2016年最後の試合はイタリア・スーパーカップだった。相手はユベントス。試合は1-1のままPK戦までもつれ込み、ブッフォン対ドンナルンマの夢の対決が実現した。ドンナルンマがディバラのPKを止め、最後はパシャリッチが決めてミランが実に5年ぶりとなるタイトルを獲得した。やはり今年は違う。大興奮のまま2016年を終えたのだった。
・2017年は地獄のように…
かなりいいムードのまま2016年を終え、新年初戦をカリアリ相手に勝利し、このまま最後まで突っ走っていくことを期待したのだが、すぐに地獄がやってくる。アウェイのトリノ戦で引き分けると、そこからナポリ、(コッパ・イタリアの)ユベントス、ウディネーゼ、サンプドリアに4連敗。さらにウディネーゼ戦でデパウルのラフプレーにやられたデ・シリオを筆頭に怪我が呪われているレベルで多発。モントリーヴォ、ベルトラッチ、デ・シリオ、ボナベントゥーラ、アントネッリ、カラブリアなどがほぼ同じ時期に怪我で不在だった。ポジティブムードが一転して、一気に地獄へ落とされた気分だった。
・感動の勝利、少しずつ復調へ…
4連敗でもはやモンテッラの手腕にまで疑問を持ち始める人が出てくる中、迎えたアウェイのボローニャ戦。絶対に勝たなければいけない試合のはずが前半からロマニョーリが怪我、パレッタが退場、そして後半はさらにクツカも退場と満身創痍だった。ピッチ上には9人しかおらず、ボローニャ相手に殴られ続ける展開に。もはや痛々しすぎて直視できないほどだった。そんな中、久しぶりに出番を与えられたポーリが足を引きずりながら走っていたり最後まで諦めない姿勢が見れた。そして、9人のミランがカウンター1発を決めて見事に勝利した。自然と涙が出た試合だった。続くアウェイのラツィオ戦を引き分けに持ちこみ、そこからフィオレンティーナ、サッスオーロ、キエーヴォ相手に3連勝。怪我人の多さやクオリティの問題で、もはやシーズン前半のようなサッカーは出来ていなかったが、それでも少しずつ復調へ向かいはじめた。この頃から不調のロカテッリに代わってソサがスタメンとして出場していた。
・やはり立ちはだかるユーヴェ、戻ってきたスソ
徐々に復調してきたミランにアウェイでユベントスとの試合が待っていた。確かに圧倒されていたが、それでも途中までスコアは1-1で、ユベントス相手に勝ち点1を得られると思った。しかし後半アディショナルタイムにPK。これをディバラに決められ、敗戦。判定に不満の選手たちが怒りを爆発させる中、冷静に止めにはいったモンテッラとガッリアーニの姿は素晴らしかった。次のジェノア戦は勝ち、ペスカーラ戦はドンナルンマのミスで引き分け。パレルモ戦には怪我から戻ってきたミランのエース、スソの大活躍で4ゴール大勝。ミランはヨーロッパリーグ出場権獲得に向けてラストスパートをかけていきたいところだった。
・新生ミラン誕生、しかし再び地獄へ…
4月に入って、ようやくミランの売却が正式に決まった。これにより、ベルルスコーニ・ミランの時代は終わった。新たにヨンホン・リー氏が会長へ。そんな新生ミランは、しかし再び地獄を見ることになる。ミラノダービーは、後半アディショナルタイムのサパタの同点ゴールで劇的ドロー。チームの雰囲気は良くなっていった気がしていたが、続くホームでのエンポリ戦を落とし、そこからクロトーネ、アタランタには引き分け、ローマ相手には4ゴールを奪われ大敗。ヨーロッパリーグ出場へ向けて大事になる時期に5試合で勝ち点3しか得られなかった。ところが順位上のライバルであるインテルやフィオレンティーナも失速。そのためまだヨーロッパリーグ出場権獲得の可能性は十分に残されていた。
・再びヨーロッパの舞台へ…!
そして第37節のボローニャ戦。勝てばヨーロッパリーグ出場が決まる大事な試合。前半は点が入らなかったが、後半にデウロフェウ、本田、ラパドゥーラの3発で快勝。途中出場のマティ、本田が活躍するなどモンテッラの交代策が見事にハマった。期待の若手、クトローネもプロデビューした。そしてヨーロッパリーグ出場が決まり、とうとうミランは長い低迷を脱するための、第一歩を踏み出したのだった。
・モンテッラの手腕
もちろんヨーロッパリーグ出場だけで満足するクラブではない。このチームにはチャンピオンズリーグ優勝7回という歴史がある。しかし、今シーズンに限って言えばヨーロッパリーグ出場は大きな結果だと言わざるを得ない。シーズン前からのクラブ売却に関するゴタゴタ、満足にできない選手補強、怪我人の多さなど、これだけの要素がありながらヨーロッパの舞台へ復帰するチャンスを掴んだミラン。なによりモンテッラ監督の手腕には脱帽するばかりだ。これほど冷静さを保ちながら柔軟にマネジメントができる監督だとは、モンテッラ大好き人間であった僕ですらわからなかった。しかし、よくよく調べなおしてみると、カターニャ監督時代に興味深いことを言っていた。
「システムや戦術だけ知っていれば監督が務まるような時代ではなくなっている。ロッカールームでグループをどうやって管理するのか、これが一番厄介な仕事なんだ。」
「もう監督がチームを作るような時代じゃない。監督の仕事は、スポーツ・ディレクターや会長が買ってきた選手を上手くまとめることだ。獲得する選手をリクエストできる権利がある監督なんてモウリーニョくらいだろう。」
もちろんモンテッラは優れた戦術家だと思っている。キャプテンのモントリーヴォが言ったように"モダンな戦術家"だ。だが、それだけではなく、チームマネジメントにも長けた"モダンな監督"(まさにアッレグリのよう)でもある。このコメントをふまえて考えてみると、ラニエリと揉めたトッティをうまく扱ったローマ時代、新戦力だらけだったフィオレンティーナ1年目、そして十分ではない戦力と怪我人だらけのミランでの1年間…。やはり彼は偉大な監督になる可能性を大いに秘めている。
来シーズン、ヨーロッパリーグ予選が始まる前にチームを固めなければならない。ヨーロッパの舞台に相応しい補強が必要になる。すでに何人かと合意報道も出ているが、まだまだ大型補強は続くだろう。今夏は勝負の夏になりそうだ。ACミランの復活は、もうすぐだ。