ジャンパオロからピオーリへ
ジャンパオロが解任され、ピオーリが新監督に就任。ジャンパオロが取り組んでいたフットボールは、選手たちは理解できず、フロントは我慢できず、結局チームに何も残らずに終わった。新監督であるピオーリは、ジャンパオロのフットボールが理解できず苦しんでいた選手たちにまずは気持ち良くプレーしてもらうために、選手の特性を考慮したうえで4-3-3あるいは4-2-3-1の亜種である3-2-4-1という大枠を与える。
まずはテオ・エルナンデスの攻撃性を最大限開放するためにボール保持時はアシメSBになり、左のテオが上がり右のコンティは下がり3バック状態になる。ある程度のボール供給ができるロマニョーリが高い位置を取れるのも狙いとしてある。その3バックの前にダブルボランチという形でビリアとケシエを配置。ケシエはファイナルサードでの精度の低いプレーからひとまず離れてもらい、総合的なフィジカル能力を持って攻守のバランスを保つ役割を担う。ビリアはケシエと共に攻守のバランスを取りながら最終ラインと前線を繋ぐ役割を担う。前線ではテオ、チャルハノール、パケタ、スソに加えてレオンが5レーンを意識したポジショニング。形だけでいえば、初期ペップシティのサリーダでCBを開かせてSBが内側に絞ってできる3-2+中盤以降の選手による4-1と同じになる。
さて、ここまでピオーリは選手の特性を活かした大枠をうまく与えた印象だ。確かに選手たちは自分たちの得意なプレーエリアでプレーできる。そしてピオーリは前線の選手たちに自由を与える。「今までジャンパオロの戦術のもとで動きが縛られていたのだろう。まずは自由にプレーしてみなさい。貴方たちは個人能力はあるのだから、気持ち良くプレーできればある程度の勝ち点は見込めるだろう。」というところだ。うまくシーズンを過ごせず停滞してるチームに途中就任した監督の常套手段であり、まずは自信を持ってプレーさせること、これが大事であり、よく言われる解任ブーストとやらにも繋がる。
ただ、ガットゥーゾ時代に私が散々嘆いていたことは監督にも選手にも、盤面を修正できる人が、局面を打開できる人がいないことだ。試合前の準備こそあるが、試合中に修正ができない。個人能力はあっても、局面を打開するような戦術的な動きは皆無。そういうチームだったのだ。そうしたチームを、長期的にみてより良いチームにしていく為にガットゥーゾではなくジャンパオロを連れてきたのだ。(このブログで書いてきたように)ジャンパオロのフットボールを理解したうえでプレシーズンから観ていれば、チームは変わろうとしているんだ、というのが理解できる。例えばビルドアップの局面は大幅に改善された。プレシーズンからジャンパオロは、中央を封鎖する相手に対してMEZの選手をワイドに開かせて相手が付いてくれば中央が空く、付いてこなければそこが基点となるビルドアップの動きを仕込んでおり、シーズン開幕後も数的同数でマンツーマン気味に前から守る相手に対してケシエを下げ、チャルハノールを上げることで相手の守備の基準をズラしていく形も見せた。GKからのビルドアップでもケシエとチャルハノールを下げ、ベナセルを上げてFWに当てることで、セカンドボールを拾えれば擬似カウンターに、マイボールに出来なければそのままベナセルが下がってリトリート守備にすんなり移行できる、という形を見せた。選手の配置と動きにやって相手の守備をズラしていくことで局面を優位に進めていく、ということをジャンパオロは選手たちに教えていた。そうした動きで局面を優位に進めることができるということを、自分たちではどうにもできない選手たちに早く学んでほしかった。ただ、今までこうした戦術的な動きを求められたことのない選手たちはすんなりと飲み込めず、ジャンパオロもマネジメントの部分でミスが出始める(パケタの件など)と、チーム内外で不満が出て、結果長期的なプランで招聘したはずのジャンパオロを7試合で解任することになった。
さて、話をピオーリに戻すと、彼は選手たちに自信を取り戻してもらうために、3-2-4-1という大枠を与え、前線の選手には自由を与えた。レッチェ戦、一見するとチームが大幅に改善したかのように見えたかもしれない。驚くほどに酷い内容だったレッチェに対して、前半のミランの選手たちは自信を持ってプレーしていた。これが自由にプレーさせた効果だろう。しかし、攻守においてまるで整備されておらず、特に再現性のある攻撃もなかった。戦術的には明らかな後退である。結果的にドローで終わってしまった。
そしてローマ戦、ミランは変わらずに3-2-4-1である程度自由にプレーするが、相手はローマであって個人能力で殴り続けられるわけではない。ミランの3-2ビルドアップに対して、ローマは4-1-4-1(4-3-3)で中央を封鎖、サイド誘導で両脇CBからサイドの選手にボールが出たところをボール奪取ゾーンに設定。初手で、中盤経由あるいはサイドの選手につけて横のレーンの選手と崩そうとするミランのビルドアップを封じようとしたローマに対して、ミランはなにも解決策が出せない。そして気が付けば中央に集まりペナ幅で5人が横並びする地獄のような光景まで見れた。初期配置は5レーンを意識したのかもしれないが、選手たちが意識してプレーしている姿はまるで見られない。チームとしての攻撃はガットゥーゾの時よりも質が悪い。
ミランの3-2ビルドアップに対して、ローマは4-1-4-1(4-3-3)で中央へのコースを閉じつつ、両脇CBからサイドの選手にボールが出たところが取りどころ pic.twitter.com/f5BI1WP0Sq
— k (@calciostyleoe) October 30, 2019
しっかりとサイドでボールを奪われ、しっかりとテオの上がったスペースを使われるミラン pic.twitter.com/FF99UqhBkQ
— k (@calciostyleoe) October 30, 2019
中央で繋いでいこうとするミランとやらせない意識のローマ pic.twitter.com/mA1RjwC3MW
— k (@calciostyleoe) October 30, 2019
チャルハノールが下がってこようとも前は向かせないローマ→少し連動性が落ちてビリアから前へ進めたミランだが、前線5人が集まってペナ幅に横並びする地獄の光景 pic.twitter.com/Bomkkae7xw
— k (@calciostyleoe) October 30, 2019
何度も言うようにミランは個の質である程度殴れるだけの能力はある。しかし個の質頼りから脱却して組織の中で個を活かすチームになれるように、ガットゥーゾから変えて前へ進もうとしたのではなかったのか。これではさらにチームを強くするために個の質をアップデートし続けなければ、つまりお金を使い続けなければならない。そしてそれが決して前へ進むためのいちばんの近道ではないことは、多くのクラブが、そしてもちろんミランも示してきているはず。
ピオーリがまず取り組んだことは、選手を気持ち良くプレーさせてあげること。戦術的な解釈がうまくいってなかった選手たちをある程度自由にプレーさせてあげるのは短期的には効果があって、選手の特性を考慮した結果3-2-4-1という大枠を与えることで選手の個人能力を引き出すことを目指した。
— k (@calciostyleoe) October 28, 2019
で、ピオーリがその後のディテールの部分についてどう考えてるのかはよくわからないけど、例えば選手たちに気持ちよくプレーしてもらった結果EL争いできました、ってなったとして、それってチームとしても個人レベルでも成長してるのか?って話だよね。
— k (@calciostyleoe) October 28, 2019
選手たちにとって戦術的に少し難しいことに取り組んでもすぐにチーム内外から不満が出る→じゃあ結果出したいからとりあえず気持ちよくプレーしてくれ→EL争いできました→個人能力で戦ってる分来季はもっと良い選手取らないと→FFPで苦しい、CL出場はマスト
— k (@calciostyleoe) October 28, 2019
また、いつも通りの、毎年恒例の、特に面白いわけでもなく、特に成長が期待できそうでもなく、なんとなく最悪は免れる程度の結果は出すチームに戻った感じだな
— k (@calciostyleoe) October 27, 2019
ジャンパオロがうまくいっていたわけではない。ピオーリがここからチームとしての質を高めてくれる可能性がないわけではない。そしてこれでまったく勝てないチームになるわけでもない。ただ、戦術的にみればチームは明らかな後退であり、今の段階ではミラン復権への道は遠ざかったという印象を受けざるを得ない。今後1か月の厳しい日程をポジティブな結果で終わることをただただ祈るしかない。